World Guide to Beer SIERRA NEVADA NARWHAL

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第89回『イッカク』

村上春樹の小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』では高い壁に囲まれた街から脱出しようとする”僕"の物語が出てくる。その街は幻想的、不条理な理によって人々に永遠の平穏を与えている。ただし、その平和は心と引き換えだ。住民が街の外へ出ることは出来ず、誰もが心を失いながらも、その日を終えていく。まだ心を失っていない僕は図書館の女の子に仕事を手伝ってもらいながらも、街について調査を始めるが・・・この小説には2つの世界の物語があり、それぞれが独立しているようで、最終的には1つに繋がっていく。2つの世界は、時代や場所が全く異なるのだが、共通して登場をするキーワードが『一角獣』である。"私"の物語では奇妙な仕事の報酬として貰った一角獣の頭骨が出てくるし、"僕"の方は街外に一角獣が住み着いている。現実の世界では、一角獣ユニコーンは空想の生物であるが、角1つの海洋生物イッカク(NARWHAL)は実在する。ただし、イッカクそのものも空想の生物であると考えられていた時代も長く、生息区域も北極であるために一般の目に触れることは少ない。

カリフォルニア州チコにアメリカ第二位のブランドとなったブリュワー、SIERRA NEVADA Brewin。クラフトビール界では名の知れた存在であるが、実力はいかに。

飲んでみよう。
インペリアル・スタウトということだが、かなり飲みやすく拍子抜けをしてしまった。ロースト感は薄く、何方かと言えばダーク・フルーツのような空気が漂う。苦味はあるが、これも強烈さは無く、清々しい。強烈なインペリアルを飲みたい方向けではなく、初心者向けのビールと言える。味は複雑であるが、私はあまり好みではない・・・かな。ビールの状態が悪い個体だったようで、機会があればもう一度飲みたい。

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イッカクのパッケージが特徴的

次回『Heavy amber』
スペシャル記事ですが、特殊なお酒のため5月掲載を予定しております。

World Guide to Beer Modern Times hoppy dank amber

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第88回 【技術革新5】

光線1本をガラス管を通じて送信する。
送信できるなら、受信もできるはずだ。きっと画像や動画データだって出来るはずなのだ。1954年にネイチャーに提出された論文は、ガラス管を通して光を活用することが、しっかりと明記されている。執筆者はインドの若き物理学者にして発明家ナリンダー・シン・カパニーである。彼は数千本ものグラスファイバーを1つ束に纏めて、光を送る技術を考え出した。問題は、その数千本のガラスが、折り曲げられたときに、果たしてケーブルの両端できちんと正確な情報が受け取れるのかという技術的な疑問であった。彼はガラス内部で何度も反射する光を全て有効活用する基礎を作り上げたが、何故かノーベル賞は貰えなかった。光ファイバーケーブルの功績では、別の人物が受賞してしまい、最初の基礎土台は無視されてしまう。別の人物 - チャールズ・カオは光ファイバー内の減衰をガラス内部の材質を変更することで低減できる事を発見しノーベル賞を受賞した。事実上、光ファイバーケーブルの促進を進めた功績での受賞である。彼の功績により光ファイバーが実用化されたとも言えるため、異論を唱える人はいない。しかし、カパニーが未だに受賞できていないのは明らかに不自然であり、今日の光通信技術の発展を担った最初の人物が蔑ろにされている。人類に大きな影響を与えた発明品である光ファイバーケーブル、光とガラスで真実が伝わる日が来るだろう。

最も美しいダークアンバーと言える。大変に期待できるModern Times最終回は、光ケーブルとともに皆様へ私の意見を送り届けよう。

飲んでみよう。
ホップ味がヤバイ。詰め込み過ぎである、IPAクラスのぶち込みっぷりが清々しい。というよりもIPAよりも詰まっている。苦味重視と思いきや渋みも利かせているため、半端じゃない。お口の中が大変なことになっており、これだけでも購入する価値があったといえる。これまでModern Timesシリーズを取り上げてきたが、ここが1つの終着点と言え、私はhoppy dank amberを強く推そう。実に明快な強烈さであり、これこそ現代に相応しい最新鋭のビールだ。

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傑作ビール

次回『イッカク』

World Guide to Beer Modern Times hoppy citrusy wheat

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第87回 【技術革新4】

チェスター・フロイド・カールソンは最終的には大成することとなるが、それに至るまでの経緯は非常に険しい道のりであった。元々、物理研究者であったカールソンではあるのだが、研究所では主に特許部門で仕事をしていた。ところが世界恐慌の影響でクビになると、次の職探しは難航をした。ようやくニューヨークで特許の分析者として雇われると、次第に頭角を現し始め、どんどんと出世を重ねて管理職となった。それは、つまるところ毎日、膨大な特許申請を処理する日々であり、とてつもない激務だった。流石に優秀なカールソンでも特許書類をしっかりと確認・手作業で複写する職務の連続に、関節炎を患った。体は関節炎で痛いのに、毎日彼の机には膨大な審査書類が積み上げられ、どうしようもなくなってしまったのだ。「なにかズルは出来ないものだろうか?」彼は物理学の知識がある、前職は研究所だ。色々と考えていくうちに、電子写真術を考案した。これは現代のコピー機である。コピー機のカメラ部分から排出される静電気をドラムに帯電させる方法を思いついたカールソンは、これをドラムから紙に転写する機械構築を成功させる。このアイデアで特許を取るのは簡単だった、何ていったって前職は特許会社なのだから。次の命題は、コピー機を販売する事だったが、この計画は実に16年にも及ぶ挫折の連続であった。どこに行っても追い返され、馬鹿にされると、そのうち意気消沈をしていった。しかし、諦めない。最後の最後で必ず立ち直るカールソンは、ついにハロルド社によって見いだされることとなる。これが後のゼロックスである。カールソンの発明は、世界経済に大きな変革を起こし、多くの複写機が特許申請を行う人を救っている。もちろん特許申請とは関係ない人々も救っている。

ある意味、最もモダンな発明と言えるコピー機であるが、hoppy citrusy wheatは現代のビールと言えるだろうか。今回はウィート( 小麦) ビールなので、あまり近代的(?)ではないと予想されるが・・・

飲んでみよう。
なにこれ?なんだこれ?南国のパッションフルーツとホップを大量にぶち込んだ味である。しかし、麦の甘みを上手に生かしており、マンゴー的な甘みと喧嘩することなくミックスされているのである。まるでジュースのような感覚ではあるが、最後の最後にビールらしさが立ち上げってくるため、不思議なのである。苦さは少なく、味は程よい甘さに抑えてある。それでいて味は薄くないのだから、最終調整はばっちり決まっている。本当に、なんだこれは、と言ってしまう不思議さに溢れ還っている。思わず微笑んでしまった。

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飲んでみれば解る不思議さ

次回『技術革新5』

World Guide to Beer Modern Times red rye

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第86回 【技術革新3】

石油から様々な製品が作られるが、中でも繊維製品の開発を熱心に行っていたのがデュポン社だった。後にナイロンの開発で有名になり、次々と合成樹脂や合成繊維で大儲けをした巨大企業である。この分野では世界最大の企業であり、新製品の開発も巨額だ。ステファニー・クウォレクは優秀な科学者であったものの、女性差別のために社内では疎まれる存在だった。彼女はポリアミドを研究中に偶然にも『いつもと違う失敗作』を造った。奇妙な液体に関心を持った彼女は、それを上司に報告をしたが無視された。また報告をしたが無視された、また報告を・・・クウォレクの熱心な説得に根負けした上司は、その奇妙な液体の研究を許した。すると、これまでにはない奇妙さが次々と発見されていったのだ。この奇妙な液体から作られた繊維は、異常なほど頑丈で、調べてみると鋼鉄の5倍も強靭なことが判明したのである。クウォレクはこの研究を続けて、特許を取得した。その特許はデュポンが買い取り、それ相応の昇進・給料を彼女は手にすることとなった。それ以降、製品化された特殊繊維はケブラーと呼ばれている。ケブラー繊維は、曲がりにくかったため通常の繊維製品に用いられることはまずない。またケブラーは特性上、強い力が加わると、その衝撃で延びる。これらの特性は防弾チョッキにうってつけだった。しかし、肝心の軍隊はケブラーにあまり関心を抱かなかった。銃弾を止める繊維に疑問があったらしく、ケブラー防弾チョッキの採用は見送られた。ところが、ベトナム戦争が終わると、すぐにケブラー繊維の重要性に気が付き、打って変わって膨大な予算が投入されることとなった。それまでの防弾チョッキは金属板を用いた古式のモノであったが、ケブラーなら大幅に軽量化することが可能だ。また鋼鉄以上の強度を持つケーブルが開発可能となったことによる恩恵はとても大きい。特に建築関係ではケブラー繊維が必要不可欠で大活躍をしている。

女性科学者クウォレクが赤色が好きだったかどうかは不明だが、情熱研究家という事で赤色ビールを紹介する。今回はIPAに属するジャンルであるため、味はかなりきつそうだ。

飲んでみよう。
IPAらしくホップが強いため、飲めない人も出てくるラインだ。柑橘系の、特にグレープフルーツのような香りが鼻を刺激し、飲みごたえがある。とにかくホップ味を全面に押し出している。ライ麦らしさは少しあるのだが、それよりホップの方が強く、どこまで行ってもIPAの直線をひた走る。ある意味、予想通りな味なのだが、強烈にきついというわけではなく、どこか優しい。奇妙さはないのだが、堅実に強い土台を感じるビールだった。

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強いビールが好きな方にお勧めです。

次回『技術革新4』

World Guide to Beer Modern Times coffee roasty stout

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第85回 【技術革新2】

ダイナマイト発明者であるアルフレッド・ノーベルの功績は広く世に知られているが、兄リュドビック・ノーベルの発明に関してはさほど知られてはいないだろう。彼は親が運営していた銃工場を受け継いだのだが、長兄ロベルトが偶然にも銃に使用する木材を探索中に石油を発見、それを機にアゼルバイジャンに石油会社を設立した。後にノーベル兄弟石油会社はロシアの油田開発で成功すると、リュドビックは石油に関する研究施設を設けて、弟アルフレッドさながらの研究に没頭するようになった。彼を悩ましていたのは、掘り当てた石油をいかにして遠方に届けるのかという事である。まず陸路ではパイプラインを改良することに努めたが、そのうち海上輸送する方法が最も良いと考えるようになり、石油輸送専用の巨大船を設計しはじめた。石油を海上輸送する - 言うのは簡単だが、この時代では問題が多かった。石油を樽に入れて船に積む方法は、漏れる危険性が極めて高く、火災の懸念もあった。そこで彼が考案したのは、石油専用の貨物室を設ける内部設計だった。そして積載する石油を機関室から遠ざける事も忘れていない。また石油と気温の関係についても十分に研究をしていたリュドビックは、貨物室を換気できる機構を備え付けた。第一号ゾロアスター号は世界初のタンカーとして商業的に成功をすると、他の会社も真似た。リュドビックのタンカー改良は留まることを知らず、石油貯蔵エリアを細分化して、石油が船体の片側に偏らないような工夫も取り入れられた。そうすることで巨大な船体を安定させることが可能となり、転覆の危険性も減った。リュドビックの野望は深く、次々と野心的な石油開発を行っていった。ロシアの石油製品の4割はノーベルが実権を握り、タンカーの成功で世界経済をも握る名門となった。しかし、その成功はバクー・コミューンによる軍事的手段によって強引に国有化されると、ノーベル兄弟石油会社は消えることとなった。

真っ黒なモダンタイムスは、私の愛してやまないスタウトである。やはり黒いビールは美味いと相場が決まっている、しかもこの深き深淵は、とても見た目が宜しい。

飲んでみよう。
評価が難しい黒ビールである。というのも飲み始めにインペリアル・スタウトさが感じられるのだが、インペリアルらしくないアルコール度数5.8%に我に返る。名前が示すとおりにコーヒー味であり、それも隠していない味わいなのだ。通常、コーヒー・スタウトは、どこまでローストしたかにより味に反映されるのだが、これは結構、ローストしている感がある。少しウーロン茶のような苦さがあるが、かなり微小であり、コーヒー+ブラックチョコレート+ウーロン茶という変質的な苦さを感じる。そのため黒ビールの中でも味わいは相当に複雑なタイプに分類され、久しぶりに黒ビールで驚く事となった。風味に工夫が凝らされている印象だが、凝り過ぎていると捉えられるだろう。ギミック多き黒ビールだが、品質的には上級であり、玄人向けのビールに仕上がっている。

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飲むとお腹一杯になります。正に石油的なビールだ。

次回『技術革新3』
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