教えて萃香さん IPA

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【過酷な長旅】


18世紀、ユニオンジャックが世界中の国に対して戦争を吹っ掛けていた。
英国は強大な海軍力を背景に、多数の軍艦を用いて植民地戦争を行っていたのである。
これにより強固な海上輸送ルートを構築した英国は、膨大な物資を前線に届けたのである。
植民地の拡大は、有名なところで言えばインドの実効支配であり、東インド会社の拠点もインドにあった。
そのため英国にとってアジアの足掛かりとなるインドは重要拠点の1つであり、大量の人員が必要だったのである。



広大なインドを統治するために、軍人から商人、建築家、銀行員、政治家など等を輸送したが、直ぐに問題に直面した。
英国本土から遠路はるばるインドの地にやって来た人々を待っていたのは、酷暑である。
慣れない土地での作業は思うように進まず、強固な海上輸送ルートがあったとはいえ、物資の輸送や情報伝達には時間が掛かった。
物資不足が発生したとしても、その現状が本国に伝わり、会議をして、決定されて実行に移されるのは『そうとう先の話』なのだ。
さらに深刻なのはインドの水質であり、当時の報告には『インドの水は非常に危険である』とさえある。
こんな暑い日に、英国のエールが飲めたなら最高なのに…
しかしこれは極めて難しいオーダーなのである。



現状を直ぐに理解した英国は直ちに解決に乗り出した。
まず、ポーターをインドまで運ぼうとしたのである。
しかし、この長旅はビールにとってあまりにも過酷な長旅であった。
激しい船揺れに加え、船室の温度環境は最悪、しかも赤道を2回も越えなければならなかった。
こんな最悪な環境を5ヶ月間も耐えねばならず、そして当時の航海は順調に進まないことのほうが多かった。

「やった、ついに本国から最高のポーターが届けられたぜ」

そう言って港に駆け寄った人々が落胆するのを思い浮かべるのは、実に容易い事だ。(※1)



ロンドンの醸造家ジョージ・ホジソンは、この難題に真っ向から挑んだ。
彼が開発をしたのは過酷な環境に耐え一切に劣化をしないビール、 India Pale Ale(IPA)である。
IPAの仕様は凄まじい事で知られ、初期比重1.070~1.090、糖度は22%、ホップ投入量はリッターあたり12.5g。
計算上は苦さの数値IBUは150を超えるモンスタービールとなる。
ちなみに現代のビールはIBU30程度なので、IPAは7倍以上も苦かったことになる。
しかし、インドでビールを待ちわびていた人々には大好評で、IPAは膨大な利益をあげた。
IPAにとって激しい船揺れは発酵作用を助ける揺り籠となり、蒸し暑い船内も長期航海も希薄化を助けた。
過酷な環境ですら、自身のアドバンテージにしたのである。



戦闘機がタイムセールされるくらいに時計が進むと、IPAはアメリカに渡った。
元々マッシブなビールであったIPAは別の軍事大国に拠り所を移し、現代でも生き残っている。
面白いことに、こんなにも特殊用途ビールにも関わらずIPAは絶滅の危機に陥ることはなかった。
今日、製造をされているIPAの多くは、そこまで苦くはないものの、IBUは60以上ある銘柄が多い。
次回のWorld Guide to BeerではIPAが初登場、お楽しみに。


(※1)ポータービールは長旅に耐えられなかった…これは間違いであり、後年に作られた風説であることが確定をしている。さらにポーター以外のエールも無事にインドに渡っており、これらのビールも好評であった。ただ特に人気であったのは間違いなくIPAである。

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