錫と小鬼 -栄枯盛衰の金属(後編)-

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紅莉栖「錫(Sn)は青銅器時代から現代まで使用されている金属なの。」
萃香「あんまり見かけないけど?」
紅莉栖「日常製品としての用途は少なくなってきたのよ。」
萃香「なんで?」
紅莉栖「高分子化合物(プラスチック )や合金技術の進歩、そしてアルミニウムの生産体制の確立があったからよ」

今では考えられないことですが、アルミニウム(Al)が金や銀よりも高額で取引されている時代がありました。当時、その貴重性から別名『Silver from clay』と呼ばれたほどで、フランス・ナポレオン3世はアルミニウムの特性を非常に気に入っていました。ナポレオン3世は食器にアルミニウムを用いていましたが、1800年代の技術から考えれば、これは大変な作業だったと思えます。皇帝用に製造する事は出来ても、一般家庭までアルミニウム製品を普及させる事は、ほぼ不可能な存在だったのです。しかし、賢い人達が実に見事な方法でアルミニウムの大量生産の方法を考えていたのです。



1800年代後半、アメリカ合衆国の科学者Charles Martin Hallとフランスの科学者Paul Louisが電気分解を用いたアルミニウムの生産方法を確立させました。この方法は現在でもほぼ同じ原理で用いられており、ホール・エルー法と呼ばれています。この方法では、ボーキサイトから酸化アルミニウムを抽出して、氷晶石を混合します。これを大型の電解槽の中で融解させるのです。電解槽の中には2つの電極があり、大凡5(V)で数十万アンペアもの電流が流されています。するとアルミニウムは電極の陰極側に集まっていくため、それを纏めて集めればよいわけです。このホール・エルー法により、人類はアルミニウムを貴重品とせずとも良くなりました。なにせ原料となるボーキサイトはさして貴重な鉱物ではありませんし、大量の電気さえあれば、大量のアルミニウムが好きなだけ生産できるのです。正にナポレオン3世が夢にまで見たアルミニウムの時代がやってきたのです!!…と言いたい所ですが、この時点でもアルミニウムは貴重な金属でした。アルミニウムを日常品まで押し下げるのに必要な電力はどのくらいだったのでしょうか、そもそも安定した送電システムが完成したのは何時頃だったのですか?とてもではありませんが1900年代初頭の電力生産能力では無謀でした。



アルミニウムが日常的に溢れ始めた正確な時期は解りませんが、恐らく1960年以降ではないでしょうか。ついに市場に溢れた最強の金属アルミニウム、あまりにも凄まじいスピードで日常に浸透していきました。なぜならば、アルミニウムほど人類にとって好都合な金属は存在をしないからです。金属元素全体から見ても、軽量であり強靭、錆びることなく耐腐食性に富み、そのうえ大量生産可能なだけの資源があります。(決してテルミット反応をさせてはいけませんよ)それ故に、アルミニウムの用途は非常に幅広く、その全てをリストアップすることは不可能なように思えてしまいます。さて、人類は古くから幾つかの金属を使用してきました。鉄だとか銅だとか…ただ、近年に限って見ると、ここまで爆発的に、かつ熱心に人類に寵愛された金属は間違いなくアルミニウムだけです。言い換えれば、人類の新しい相棒は、全てを兼ね揃えるスーパー金属なのです。錫に勝ち目はありません。



アルミニウムの普及は生活を一変させるほど強力なものでした。日常から転がり落ちた錫には、まだ工業的な役割が残されていますが、どのように足掻いたところでスタンダードに返り咲くことはないでしょう。現在、マレーシアでは良質な錫が採掘されており、世界的にも有名なピューターで作った食器で潤っています。しかし、結局のところ、そういった製品は『好きモノ』だけが購入する世界であり、我々はプラスチックやら合金、アルミニウムに囲まれて生きているのです。

栄枯盛衰の金属 - 随分と生意気なタイトルです。錫にとって、人類に活用されようとされまいと、この元素は存在をししています。ただ、錫は鋳造に向いていたために長い事、使用されてきただけなのです。
たったそれだけ…深いことを考えてはいけません。でも、仮に錫に対して想う事があるとするのであれば、かつての相棒だけあり多くの人の手に渡った稀代の金属ということでしょうか。

前編   
番外編:最も愛された金属

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