
鬼を殺す計画をした場合、もはや桃太郎のやり方では、四肢がもぎ取られるのに10秒も掛からない。銃や爆弾、戦車やミサイルによる総攻撃をしかけても、その方法で勝利した前例がないのでかなり不安である。確実性を取るのなら毒殺が良さそうだ。一般的に毒の強さは、人工合成された化合物の毒性よりも、天然毒の方が圧倒的に強力と言われている。即効性が高く、防御が難しく、検出が困難で、治療不可能なものは、何故か海洋生物由来の毒に多い。日本人に馴染み深いのは、フグ毒として恐れられているテトロドトキシンや貝毒サキシトキシンで、何れも解毒方法が確立されていない。実際に後者は、キューバのカストロ議長を暗殺するために使用が検討されていた程に強力な暗殺毒だった。旧ソビエト連邦の暗殺部隊もサキシトキシン毒が入った小型注射針を携帯していたらしく、これに刺されると10秒以内に即死したとも言われている。恐らく、鬼にも効くと思われるので、これを何とか気付かれずに刺せば勝利だ。貝毒やフグ毒が良いのは、幻想郷のような前世代な世界であっても、用意する事はさほど難しくない事にある。後は、誰がこの片道切符に志願するかだ。尤もフグも貝も効かなかったケースは考えない。そういうイレギュラーな戦況は想定してはいけない。しかし戦いとはイレギュラーケースの多発である。

東方シリーズの主人公である博麗霊夢が活躍するローグライクゲーム。もともとは、不思議の幻想郷3というゲームの完全版であった
不思議の幻想郷 -THE TOWER OF DESIRE-を、更に再改良する形でリリースされた真・完全版という立ち位置である。作品としてもコンシューマー用に制作されたこともあり、導入から解り易く丁寧な印象を受ける。幻想郷一の暴力巫女が、危険が沢山にあるが、深層にはお宝が眠るダンジョンへと歩を進める。途中、子供仙人・物部布都を仲間に加え、行く先々で迷惑と脅迫まがいの進軍を続ける旅が開幕する。丁寧な世界観に沿った二次創作ゲームであるが、グラフィックスやフルボイスに力が入っており、かつローグライクとしても上々である。どこまでやり込むのかによって評価は変わるが、ストーリーモードをなぞるだけでも相当に大ボリュームで、それでいて上手な難易度調整である。当初、霊夢が赴くことになるダンジョンは、中盤までは簡単で、後半から一気に難しくなる。特にボス戦が、どのダンジョンでも難しい印象で、そこまで行くのが安定し出してからの戦略性がある。不運が続いても、ボス戦までの道のりが安定し出すと、今度は強力な武装を求め始める。これを各ストーリー部分で繰り返してくゲームであり、更にチャレンジ・ダンジョンやDLCキャラ・ダンジョンなど良い意味で横道が多い。

好きな仲間を常に一人連れて歩ける。
これが面白いシステムで、仲間によって特殊能力が大きく異なる。また、仲間に持たせる防具や武器も自由に設定可能で、武器類は使えば使うほどレベルが上がっていく。このため、自分の育てたい装備を仲間に持たせることで、一定のレベル上げは楽に行えた。武器の能力付加や合成などのハクスラ的な装備集めも充実しているが、
廃人仕様な一面があり、私は深くは探索しない方針で進めた。一応、最強装備などを求めない限り、そこそこ強い装備は何とかなると思う。特に能力付加が重要で、属性攻撃や属性防御をケチらずにドンドンと付加させまくっていった方がクリアはしやすい。後に強力な装備に移行する際も、それらの能力を"抜く"ことは簡単にできるので、育て上げた旧装備が無駄になる事も無い。プレイ方針にもよるが、
敵の状態異常が顔面真っ青レベルで凶悪であり、兎にも角にも防御重視の方が良いかも知れない。このため画面全体攻撃カードや遠距離攻撃に大きな価値があり、ローグライク系の中でも接近戦と遠距離のバランスは総じて高いと感じる。世界観を重要視したローグライクゲームだが、この魔法と近接暴力のデザインを違和感なく落とし込めたという点においても評価が出来る。

登場人物の大半が妖怪である。人外美女と言えば聞こえは良いが、基本的に迷惑な奴しかいない。物語が進むと、目に見えて多様多種な妖怪が沢山に出てきて、その度に説教をしたり、脅迫をしたり、されたり、仲良し暴力で霊夢さんの旅は面白おかしい様子である。始まりから終わりまで、一貫した空気作りが大変に練られており、感心させられた。明るい笑いに古典的なやり取り、でも基本は暴力巫女で酒も呑んでぐでんぐでん。何時もの萃香さんも居酒屋で飲んだくれており、早く誰かが討伐しなければならない。こういった妖怪と人間とのやり取りはフルボイスで行われ、質の高い絵と合わさり独特の世界観に寄与している。本当に良くしゃべるゲームで、プレイ中に出てくる敵妖怪やストーリーパートでも会話量が多い。やや問題なのは、一部のDLCパートが即時開始できない仕様なことで、ちょっと面倒だと感じた。このDLCストーリーは全て終わらせたわけではないので詳細は書けないが、概ねで良い印象である。主人公を暴力巫女さん以外に変更し、それぞれの旅が描かれる事となるが、本編と同じようなクオリティであり安心が出来る。またキャラDLCを入れると、本編でも霊夢以外のキャラで進行可能となる。個人的に霊夢のアビリティが強いと思うが、特殊能力が無いスタンダードな立ち位置なので、戦闘の趣向を変えて他キャラにしてみるのも飽きが来ない。元からキャラが多いゲームなので、DLC物語やキャラ替えのシステムは上手だと感じる。

楽しむにもクリアにも独特のコツが必要となる。
まずアイテムと能力の出し惜しみは絶対にしない方が良い。レアアイテム堀をするのであれば別だが、攻略上、そこら辺に置いているアイテムを集めているだけで持ち物が一杯になるくらいには収集可能なデザインである。死ぬときは一瞬で死ぬような状態異常が多いゲームなので、少しでも危険だと感じたら即時アイテムを使用しないと先へ進めなくなってしまう可能性が高い。この手のローグライク系初心者に陥りがちなミスだが、アイテムは集めるモノではなく、これを使って妖怪をぶっ殺すくらいの気持ちで挑もう。これが出来るようになると、装備やアイテムの多さから取捨選択が楽しくなってくると思う。ただし、ストーリークリアを目指すとなると、出し惜しみの戦略も重要になってくるだろう。各ダンジョンのボスが凶悪で、全体攻撃系のアイテムを連発しないと、ボス周辺の雑魚掃除出来ない状況が多いと感じた。よって慣れたら、強いカードを貯蓄し、ここぞという時に連発するくらいの最低限の戦略は必要になってくる。出し惜しみをするか、しないのかの戦略性はきちんと確立されていて、アイテムや装備のバランスは良い。これも中々に唸るポイントだ。ちなみに、私のような脳筋でも近接暴力7割、遠距離2割、アイテム乱発1割、くらいのプレイ攻略でぎりぎりクリアだった。もっと慎重に進めたいのであれば、遠距離攻撃が優秀だと思うので、近距離は控えめの方が楽になるのかもしれない。

各ダンジョンのルール(縛り)は古典に沿っていて、予想通りでありつつも、世界観を壊さない配慮が凄まじい。このゲームは東方という人間と妖怪たちが共存する空気を、かなりの部分で慎重に扱ったのだろう。先の飲んだくれ萃香さんは、それでも上位妖怪の風格が漂う。可愛らしいアホの子や、真面目なキャラはそれらしい声が充てられている。もはやここまで来ると、ローグライクの出来栄えを誉めるよりも先に、
徹底されたワールド・センスに得点を与えざるを得ない。ゲームデザインが全て世界観への没入に割り当てられてから、古典的なローグライクを作り込んだかのような印象さえある。私見だが、ローグライク系で失敗する作品は、あまり無い。先駆者である"風来のシレン"に則っておけば失敗はまず考えられないからだ。これで失敗をするゲーム会社は、何を作っても失敗をする。要は安定したゲーム・ジャンルなのだ。問題は、システムとしては完全製品が存在するジャンルで、どうやって特色を出すのかという問題である。安直な回答は、世界観やキャラクターで特色を出すしかないのだが、これで失敗をする意外に作品は多い。特に世界観の構築は、ゲームクリエイターの腕の見せ所で、小島秀夫(METAL GEARシリーズ)などが世界的に有名だ。これから先のゲーム界隈でヒットを出すには、美術的なクリエイトがより重要視されるかもしれない。

長く楽しめるゲーム。
ローグライクはイレギュラーな状況に陥った時に完璧な対応が出来るかという一点に全てが詰まっている。最初はアイテム効力が分からずに死ぬことも多いと思うが、死ねば死ぬほど先へ進める。死にゲーとは異なるのは、連続死が多発するのはゲームシステムを理解していない序盤だけという点で、後半はむしろサクサクなプレイヤーは多いと思う。一部ダンジョンで、相当に理不尽な状況も見受けられた。これはゲームジャンルにある連続不運という一言で片づけ・・・られないような気もするが、世界観が完璧なので許せる。そういった意味で初心者でも手を出しやすく、この一作が出来るようになれば全てのローグライクはクリアできると言っても過言ではないだろう。PCゲームでローグライク系は多くのタイトルがリリースされているが、その中でもトップクラスに光り、かつ独自性を世界観で完備させている。ボリューム化け物なので根気が必要であるが、年単位で楽しめる作品である。