コラム:サキーとSake

日本酒が好きではない。
これだけブログで各国のビールを取り上げているにも関わらず、私は日本酒だけが興味の対象から外れている。全く飲めないというわけではないのだが、甘い酒全般がダメなため苦手という意識がある。辛い日本酒も何度か頂いたことがあったが、言えばスコッチの方が遥かに好きで、やはり蒸留酒にはスモーキーさを求める。日本酒は、あまりに清廉潔白すぎて好みじゃない。そして近年は獺祭をはじめとするフルーティな甘さをウリにする日本酒が流行っている。一度だけ付き合いの関係で獺祭を呑んだことがあったのだが、やはり無理である。美味しくないから日本酒は飲まない、というわけではなく、そのものが苦手な気がしてならない。私の"弾薬庫"も空きスペースが無いため、スコッチやビール類で埋め尽くされており、新たに日本酒を常備することも難しい状況だ。そもそも、日本酒については無知な状況が続いており、保存管理から、その特性に至るまで全く知らない。不得意な分野は語るべきじゃない。だから今まで日本酒は取り上げてこなかったんだ。
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日本酒は似た味が多い・・・気がする。
正直、日本酒で利き酒は不可能に思えて仕方がない。特に大吟醸系の甘さを全面に出した日本酒は、かなり選別が大変なのではないだろうか。それを言うと、ビールにも当てはまるかもしれないが、此方の世界は"甘い"流行は到来していない。むしろビールの利き酒は、その膨大過ぎる種類による困難さの方が議題に挙がりやすい。そのため、ビールの利きをするために最初の段階 - 色である程度の予測をする必要性がある。ビールの色は多彩だ。赤、黄色、白、黒・・・これだけ明確に分かれているというのは、その銘柄のユニークさが味だけではなく色にも反映されている事と等しい。ところが、日本酒は透明だ。中には白濁色もあるが、とにかく透明な銘柄が多い。色でのユニークは期待できない。似た色が多く、甘い日本酒が流行っているとなれば、一体何を基準にソレを美味しいと断定すれば良いのか。これは私の舌に問題がある。私は甘さの程度を分類できないのだから無理を言っちゃいけねぇよ。

醸し人九平次彼の岸という高額な日本酒がある。
知人が日本酒通なのだが、この銘柄に出会ってから"彼の岸"以外は飲めなくなったらしい。私がテイスティングしたのは2015年のモノで、保存状態は非常に良いように見えた。一献頂いて、その味に驚いた。友人宅で飲んだので写真が無く申し訳ないのだが、味に酸味があり刺激的である。それでいて、上品な甘さが広がって直ぐに消えてなくなる。後味は無い・・ようで何かがキッカリを足跡を残していく。水に近い印象だが、酸味、甘未ともに一瞬で駆け抜けていくためスピード感がある日本酒だった。個人的に日本酒とは、ダルイ味付けで、次の日に残る悪酒だとばかり思っていてが、それと明らかに異なるタイプだった。生まれて初めて本当に美味しい日本酒だと感じたが、その価格がネックだ。ビール一本で1万円という銘柄は無いと思うが、ウイスキーの世界だと1万円でトンデモナイ銘柄が購入できる。ロイヤルサルート 21年、オールドパー クラシック18年、デュワーズ18年、キルホーマン。そう、1万円も出せばウイスキーに関しては選択肢が山のようにあるのだ。日本酒から酒に入った方であれば、この価格帯は大した問題にはならない。だが、私の場合はそうじゃなかった。九平次彼の岸は見送ることにした。私以外の方が購入したら宜しい。
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機会があって、美味しい日本酒を少量ずつ各銘柄ごとに飲めるイベントに参加した。
この場においても、各銘柄の味が解らない。どれも同じ味のように、どれも同じ甘さ、どれも同じ風体にしか見えない。会場を回ってみたが、九平次は無かった。知らず知らずのうちに、私の基準は決定されていたことに自身が一番に驚いた。特定の銘柄を探すという行為は、間違いなく入手したいという願望の表れである。後に聞いたところだと、九平次は海外の方で高い評価を受けた日本酒で、特にフランスでは相当に人気があるらしい。解る、フランス人が好きそうな味だ。酸味の存在が日本酒らしくなく、むしろ白ワインに近い。フランス人は自国の料理文化を誇る、ワインも大好きだ。だから白ワインに近い日本酒の存在を知った時、フランス人は文化的に活用しようと考えたのだろう。
私のように日本酒が苦手、嫌いな方は、それを修正する必要は無いと思う。受け入れられないのだから、それが真実であり、それ以上の対応はするべきではない。しかし、中には海外ウケの良い日本酒もあって、それを呑むと意味が解る。日本人でもマッカランの美味しさが体感できるのだから、フランス人に日本酒の意味が理解できないはずがない。
海外からの評価が良い日本酒は、私にあっているらしい。だが、日本人が日本酒の評価を海外の人に伺って、そのおススメを購入するというのは何か引っかかる心情である。まぁ、気にせずに米国の友人にお勧めの日本酒を聞いてみた。
「サキー(SAKE)は50ドル以上もするじゃないか!!高くて買えないよ!!」
初めて知ったが、どうやら海外の方がサキーに関してはシリアスな状況らしい。
もう1万円じゃ買えないな。九平次サキーは。※

海外 - アメリカを例に挙げるとアルコール飲料は安価な場合が多い。
ビールやワインは勿論の事、カクテル飲料も日本に比べればずっと安価だ。それと同時に、海外の酒好きは高額な銘柄を買い漁る。ワイン、ビール、ウイスキーに銘柄1つ1万円以上であったりしても、味に保証があると知っている。特にワインの高額銘柄は国問わず良く知られた存在であり、誰もがモンラッシェを1万円で購入できないことを知っている。サキーが辛いのは、低価格帯の銘柄でも輸送費などが嵩み高額になってしまう事、かつ九平次のような元が高級品であっても、得体が知れないので購入を控えてしまう人が多い事にある。しかも日本価格と比べ、2倍以上の高値で売られており、少なくともリーズナブルではないと聞く。見たことも無い漢字で書かれた銘柄が100ドルで唐突に売られていたら、その味はどうあれ普通は買わない。100ドルで良く知られた高級酒を買うのが人間だ。そもそもにして厄介なのが、漢字である。先のアメリカ友人も困っていたが、漢字をローマ字に変換したとしても意味が解らない事に変わりがない。”MIGAKI 50%”と書かれても、"磨き"について説明してくれる人が居ないので、何かが50%としか理解できないのである。日本酒の輸出額1位(2017年)であるアメリカがこの程度なので、フランスなどは更に困っているのかもしれない。
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アメリカが日本酒を製造し始めたとのニュースは聞いたことがあった。
どれだけのメーカーがあるのか、どれだけの規模なのか等は解らないが、アメリカ本国で日本酒を自前製造しているらしい。アメリカ人が自前で赤ワインを作ると、兎に角アルコール度数が高いパワフルなワインになることで知られている。カルフォルニア州では、そういった赤ワインが大量に製造され、本家フランス人は馬鹿にしていた。ところが、1970年ごろにナパ・ヴァレーのワインが品評会で優勝をすると、一転してアメリカ産の赤ワインは人気になった。こういった成功がある以上、アメリカ人は日本酒の製造を軌道に乗せたら面白い銘柄が出来るのかもしれないと思っている。その銘柄が日本国に入ってきた時、きっと私は購入すると思う。日本人以外で製造されているのだから、似通った味になるはずがない。アメリカ人の口に合わせて白ワイン風になっていたら、間違いなく私でも飲めるはずだ。
アメリカ人がアメリカ人のために作ったサキーが九平次クラスの高品質になる事を祈っている。
※アメリカ人はSakeを"サキー"と発音するため可愛い呼び方になる。