雑記

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紅莉栖「パセリの行方について」

ミキサーに材料を入れた時点で、引き返せなくなっていた。
材料は水、バナナ、レモン汁、豆乳・・・ ・・・ ・・・大量のパセリを入れてスイッチを入れる。轟音を立てて魔液が生成されていく様は、もはや人間としての尊厳すら危うい。今、冷蔵庫はパセリで埋め尽くされ、冷凍庫には凍ったパセリが領地を広げている。手の施しようがない。我家の食料は全てパセリに敗北をしたと言って良い。何とかパセリを消費しようと幾らかのアイデアを持って打倒を試みた。コーンポタージュとパセリ、パセリのハンバーグ、パセリ飯、パセリとポテト、ポテトのようなパセリ、ポテト無しのパセリ、パセリだけのパセリ、生、焼き、御浸し、冷凍、ソース・・・しかし一向にパセリは減らなかった。そして私はパセリを効率良く消費するために、禁断のスムージーを作成している。青汁なんて目じゃない、得体の知れない緑色で汚染された液体をグラスに注ぐ。バナナを入れたはずなのにパセリそのものとしか思えない。グラスを持つ手が震えていた。自身の人生で最も縁遠いと思われていた食材が私を支配しようとしているのだから。

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きっかけは些細なものだ。
知人が農業をしていて、私はちょくちょく彼からナスや人参、瓜を購入していた。私の実家は農家であったから、彼の苦労も良く分かる。尤も私は養鶏の方が詳しかったが、それでも基本的な苦労事は解っているつもりだった。彼とは酒飲み友達で、年に数回は泊りに行って酒を交わすのが慣例となっている。自動車の音一つしない暗闇が農家を覆い、カエルと虫が世界を謳歌する状況で飲むマッカランは最高だった。無農薬野菜のカレーと共に話は弾む。彼は新たな試みとしてパセリの生産をするかどうかで悩んでいた。日本産のパセリは収穫量が減っている状況であるが、彼は世界一美味しいパセリを作ると豪語をしていた。私は応援した。が、心の中ではパセリのようなマイナー野菜、もとい付け合わせでしかお目に掛かれない野菜を生産することに疑問があった。そもそも、パセリが好きな人間なんて極少数だろう。独特の苦さ、カサカサした触感、そしてダサい見た目。用途も多くない。その時は、気にも留めなかった。しかし、1年後に彼はパセリの量産を開始したのである。最初のうちは、まるで家庭菜園でコスモスを育てているかのような可愛らしい地帯だった。第一号は義理もあって、私が購入をした。珍しい野菜だし、付け合わせにするくらいならと。徐々に生産量が増えていき、最初と同じ値段で購入できるにも関わらず、義理の存在によって - 格安で彼のパセリを購入することが慣例となってしまった。何度も断わりの電話を入れようと決意した。しかし、出来なかった。彼の苦労を知り過ぎてしまっている・・・言っておくが、私は冷たい人間である。世界のどこで誰が死のうが、破産しようが興味は無いし、救おうとも思わない。農家以外は。

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今までパセリなど興味が無かったのだが、調べてみると確かに凄い野菜だ。
まず栄養価がめちゃくちゃに高く、半ば野菜界のチートと言っても良いだろう。ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、カリウム、カルシウム、鉄などが豊富に含まれている。特にビタミンKとビタミンE、鉄分の含有量はパセリ一強である。しかも葉にはクロロフィルが含まれおり、コレステロールの上昇を抑制したり、貧血を予防したりする効果がある。野菜の中でも栄養素の含有量がトップクラスであるパセリは、健康維持は勿論の事、美容も期待できるらしい。また野菜ながらハーブ的な側面を持つため、精神安定や口臭予防などの付加価値も多い。ただしリスキーな面もあり、大量に摂取をすると肝臓や腎臓にダメージがある。大凡、一度の摂取量200gが危険量とされているが、そもそもパセリを200g喰うというのは常軌を逸しているので殆どの方は気にしなくても良い。(りんご一個分の重さのパセリを食うだって?)ただ妊娠中の女性はパセリは控えた方が良いらしい。古来のヨーロッパ人もパセリを野菜としてではなく、薬用のハーブとして見ていたようで、それがローマ人の手によってヨーロッパ全土に広まった。日本国に入ってきたのは遅く、18世紀ごろの長崎に運ばれてきたものの、あまり活躍することなく今日に至っている。一応、我国では茨城と長野の2県が主な生産地であるものの、総生産量は5000tも無い状況のようである。

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パセリ消費は、あまり多く食べれないという危険との戦いであり、この単調な苦さとの戦いでもある。最強のエリート野菜であることは間違いないのだが、この味が苦手な方が多いというのは理解が出来よう。苦い、ただひたすらに苦い上に、料理との調和性が無い。よって生で食べるしか活路が無い。あまり好き嫌いをしない私であるが、このパセリに関しては食べても美味しいと思ったことは一度も無い。嫌い!!と言うわけでは無く、好んで食べようとは思わないというのが正直な感想である。しかし、これは戦争なのだ。格安で大量に - 大量の義理と謎の善意がぶち込まれた愛情100%の大暴力パセリちゃんを喰らう他道は無い。一日の摂取量を守りながら戦いは続いた。が、飽きる。パセリはどうにもこうにもパセリ過ぎて太刀打ちできないのだ。しかも、パセリを主体に料理をすると9割の確率で失敗をする。焼きそば、うどん、蕎麦、焼き魚に餃子、和食、中華は期待できない。フレンチやイタリアンは良く分からないのでパセリ以前の問題である。生で食うのに限界が来ていた。ヤルしかなかった・・・パセリのスムージーに全てを賭けるほかない。出来上がったスムージーは邪悪だった。臭い。ヤバイ。死ぬかもしれない。一度、呼吸を整えてタリスカーを呑んだ。お前もキツイ味だと言われるが、パセリ・スムージーほどじゃないよな?意を決してドロドロになったパセリを飲んだ。涙が出た。なんでこんな酷いモノを飲んでいるだろう。私の人生とは一体何だったんだろう。こんな魔液を飲むために今日までの努力があったのか。許してくれ・・・私は間違ったことはしてこなかったじゃないか。どうしてなんだ。価値を教えてくれ、道徳を再認識させてくれ、美徳を学ばせてくれ。ああ、何だか腹が立ってきたよ。このクs・・・

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彼とは良好な関係が続いている。
流石にパセリ購入量は減らしてもらった。(尋常ではない安さで大量に購入できた。友達価格と言うやつにしても赤字だっただろう)不思議なもので、パセリが無いと食事とは呼べない日常になってきている。それは、まるで歯磨きを忘れてしまった時の気持ちの悪さによく似ている。あまりにも身近なルールになり過ぎて、ソレを食さないと一日が終わらないのである。そこに味の好き嫌いと言う概念は無く、ただ習慣としてのパセリ食が象徴として鎮座している。最終的にパセリ・スムージーですら飽きて、生食に戻った。ドレッシングだとか特別な調理などない。皿・パセリで終了である。健康を目指しているわけでもない、既に健康だ。スーパーモデルに転身するつもりも無い、既に時が遅い。パセリ食を始めてから3か月が経過したが、特に変わったことも無く日常が過ぎていく。強いて言えば、朝に強くなった気がする。前までは朝起きた瞬間の気怠さは20分ほどあったのだが、想えば今は無い。勿論、パセリが原因であることの証明は難しい。たまたま、なだけかもしれない。他の食材も並行して食べているわけだし、運動も行っているのだから短絡的な二元論で結論を出すべきではない。ただパセリを見る度に、ローマ人の気持ちが少しだけ解るような気がしてきた。彼らがハーブとして食事に添えていたパセリは、日本以外の国では愛されており、日本では私が一番に愛している野菜となった。そう言えば紅莉栖、お前のペットボトルの中身は変えておいたよ。最高に健康で史上最も邪悪な液体にな。

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No title

パセリの天ぷらはいかがですか。

Re: No title

> パセリの天ぷらはいかがですか。

パセリ常食者がどれくらい存在するのかは不明ですが・・・
私は大量のパセリを保存するために、必ず冷凍保存を行います。これで1ヶ月は持ちます。

記事内では、あまり良く書かれていないパセリ・スムージーですが、パセリ常食者は避けて通れない道ですのでお勧めです。
また、パセリとパン粉を用いる『白身魚の香草パン粉焼き』が美味しかったです。
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